今回は、第二言語習得論の前提となる理論について、簡単に説明したいと思います。
第二言語習得論は、母語習得(日本人なら日本語、アメリカ人なら英語)の理論をもとに作られています。
その第二言語習得の理論を初めて発表した人が、言語学者のクラッシェンという人です。
この理論は1970年代に発表されたため、現在では幾つかの修正が加えられていますが、根本的なところは、今でも第二言語習得論の前提になっているので、簡単に見ていきましょう。
クラッシェンはモニターモデル、という名の下に、以下の5つの仮説を発表しました。
1 習得-学習仮説
2 自然順序仮説
3 モニター仮説
4 インプット仮説
5 情意フィルター仮説
これらの5つの仮説が効率的な英語学習に直接つながっていきます。
では一つずつ見ていきましょう。
習得-学習仮説
クラッシェンはこの仮説で、第二言語の身につけ方には2種類あると述べました。
一つが習得で、もう一つが学習です。
習得とは、他者との自然なコミュニケーションを通して身につけることです。(僕たちは日本語を習得しましたよね)
一方で、学習とは、教室で文法指導などを受けて意識的に学ぶことです。(中学や、高校での英語の勉強は学習ですよね)
さらにクラッシェンは、「習得を通して得た知識と、学習を通して得た知識は全くの別物であるため、学習で得た知識が、習得された知識になることはない」、とも述べました。(例えば、頑張って文法をどんだけ勉強しても、無意識に使えるようにはならないということです)
しかし、現在では、「学習で得た知識が、習得された知識になることはない」という部分に関しては、否定的な考え方が殆どです。
例えばスポーツを考えてみると分かりやすいと思います。
野球の素振りを例にしてみましょう。
野球の素振りの仕方を全く知らない人が、それをできるようになるためには、まず「腕じゃなく腰を回すんだ!」ということなどを、教えてもらったり、本を読んだりして理論を学びます。(学習)
初めのうちは、頭の中で「腰を回して、その次に上半身・・・」などを頭の中で意識しながら何度も練習をしますよね?
しかし、何回も繰り返していくうちに、頭の中で考えなくても、その動きができるようになってきます。(習得)
試合などでは意識せずに打ったりすることが多いですよね。
つまり、学習で得た知識は、何度も繰り返しをしていくことによって習得された知識になるということです。
英語も同じです。
ですから、僕たちは基本的に英語を学習することしか出来ませんが、学習したことを繰り返し使っていくことで、英語を習得していくことができるということです。
逆にいうと、いくら学習して理解していたとしても繰り返し使うことなしに習得することは不可能だということです。
今の多くの日本人が理解だけしている状態だと言えます。
自然習得仮説
次は自然習得仮説。
この仮説でクラッシェンは、「学習者は、第二言語をある一定の順序で習得していく、」と述べています。
母語習得において、人間はある一定の順序で言語を習得していくということが、研究によって示されています。(例えば、進行形を表す-ingは一番初めに習得され、所有格の’sは一番習得するのに時間がかかるなど Brown,1973)
クラッシェンは、この習得順序が第二言語の習得に関してもあると主張しました。(この習得順序に関しては習得順序のページで詳しく話します。)
モニター仮説
モニター仮説で、クラッシェンは、「習得で得られた知識をもとに発話を行い、学習で得られた知識は、その発話の正確さをチェック(モニター)するためだけに利用される」と述べました。
(上でも述べましたが、現在では学習された知識も、習得することが出来ると考えられています)
さらに、そのモニターの機能を利用するためには、
1その規則(文法項目など)を知っていること
2言語の正確さに焦点を当てていること(正確さを意識している)
3モニターを使うための十分な時間があること
が条件としてあげられています。
つまり、①実際に自分の知っている知識を、②正確に話そうと意識し、かつ、③それについて考える時間があるときに、学習された知識は役に立つということです。
したがって、正確性を意識しすぎると、モニターを働かせすぎ、流暢さが失われてしまいます。
一方で、流暢さを意識しすぎると、モニターを働かせる時間がなくなるため、正確さが失われてしまうことになります。
よく言われている「流暢さと正確性は相反する物だ」という根拠はこの仮説にあります。
なので、学習者である僕たちは、モニターが必要な場合に、的確に働かせることのできる、「最適使用者」になる必要があると言えます。
インプット仮説
インプット仮説では、「学習者は理解可能なインプット(その言語に実際にさらされること)を受けることによってのみ、言語は習得され、アウトプット(実際に自分から発話するなど)は習得には関係ない」と述べられました。
現在ではアウトプットの重要性が理解されているので、「アウトプットは習得には関係ない」という部分は誤りと言わざるおえません。
しかし、前半の理解可能なインプットに関しては、僕たちの学習にもかなり役立つ説になっています。
この理解可能なインプットとは何かというと、「自分がわかっているよりも、少しだけ難しいレベルのもの」のことです。
言い換えると、むちゃくちゃ難しいテキストをひたすら解きまくっても、習得は起こらないということです。
なので、一番重要なことは、
「まずは自分のレベルを客観的に分析し、その自分のレベルよりも少しだけ難しい教材(例えばスラスラは読めないが、時間をかければ読めるレベル)を選ぶこと」
と言えます。
少し英語に自信がある人たちは、自分の英語力を過大評価し、難しいテキストなどに手を出しがちなので、この部分を必ず肝に銘じておいてください!
情意フィルター仮説
これも学習者にとてはかなり重要な説になります。
クラッシェンは、この仮説で、「学習者の心理面に、情意的マイナス要因(学習意欲や自信がなかったり、不安)があると、たとえ理解可能なインプットを受けても、情意フィルターが弾いてしまい、習得できなくなる」と述べています。
簡単にいうと、「自分なんて勉強してもできるようにならない」というように、自分の能力に自信がなかったり、「本当にこの学習法であってるのかな」というように、自分の学習法に不安を持ったりしながら勉強を続けても、効果は出にくいということです。
このサイトは、勉強方法に関して自信を持ってもらうこと、さらには、「英語は誰でも勉強すればできるようになる」、という自信をしっかり持ってもらうことが一番の目的なので、ぜひ、この情意フィルターに弾かれないように、常にポジティブな気持ちで学習を続けていってもらいたいと思います。
というように、これらの5つの仮説が、現在でも第二言語習得論の前提になっています。
僕が紹介する学習方法もこの5つの説に根拠があるものが多いので、頭の片隅いこれらの理論に関しても置いておいてください。